第9話 味覚は、出会いで育つ。

〜大学時代、胸熱の先輩がくれた「食」と「街」と「背中」〜

自分の“味覚”が変わった瞬間、ちゃんと覚えてる。

大学時代、京都駅近くのホテルでアルバイトしてた頃。

そこで出会ったのが、10歳年上の先輩。

料理人で、ソムリエ資格まで持ってる、ちょっと背中で語るタイプの人やった。

その人に、めちゃくちゃ可愛がってもらった。

俺だけやなくて、同じバイトの大学の友達も一緒に、

いろんな店に連れてってもらった。

イタリアン、フレンチ、居酒屋、日本料理——全部、先輩の“お気に入りの場所”。

お金がない俺らにも、何も言わずに全部奢ってくれて、

「ええから、とりあえず食え」って笑いながら言ってくれた。

バイト終わりやバイト前、何度も一緒に通ったのが、

京都駅ビル10階の「キッチンサルバトーレ クオモ」。

あそこには20回以上通った。

初めてモエ・エ・シャンドンを飲んだのも、ここ。

「うわ…泡ってこんな味なんや」ってシンプルに感動した。

もちろん毎回が高級ディナーってわけやない。

金がない時は、東本願寺の烏丸通沿いの石段に腰掛けて、

コンビニ飯を分け合いながら、深夜まで夢を語り合った。

「俺、こういうことやりたいと思ってる」

「そうなんか。……それはそうなったらすごいな。頼むで、ほんま頑張れよ」

あの言葉、いまだに熱いまま残ってる。

社交辞令じゃない、“信じてくれてた”って確信できた瞬間やった。

それから何年も経った。

でも今、自分はあのとき語った夢をちゃんと叶えて、そのポジションにいる。

遠回りもしたし、悩んで苦しんだ時期もあった。

でも、ちゃんと今、やれてる。

だからまた会えたときには、

何気ない顔して隣に座って、ただ一言だけじゃ足りへん。

「先輩、あん時ほんまありがとう。

信じてくれてた言葉、ずっと覚えてる。

今、あの夢の中にいます。

そのきっかけをくれたのは、あの時の時間と先輩やったんです」って、

ちゃんと伝えたい。

味覚は、勝手に育たへん。

出会いと、時間と、背中と、信じてくれる誰かが育ててくれる。

俺の味覚も、夢への姿勢も、

あの先輩の愛と京都の夜に育ててもらったと思ってる。

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