第11話 夜の布団の中で、息子の心に触れた話

うちの次男は、この春からピカピカの小学1年生。

…とは言え、家ではわがまま全開、怒りっぽさ全開、主張の強さもフルスロットル。

でも実は、それがなんだか昔の自分にそっくりで、怒りながらもどこか微笑ましく見てしまうところがある。

そんな次男が、ある晩ふとつぶやいた。

「今日、○○くんから“嫌い”って言われた」

いつもの食卓での一言。普段、学校のことなんて何も話さないタイプの次男が急にそう言い出したもんだから、何か引っかかってるんやろなって、ピンときた。

でもその場では、詳しくは話したがらなかった。

だから、その日の夜。いつものように布団に入って、真っ暗な中で、そっと聞いてみた。

「なぁ、今日○○くんが嫌いって言ってたって話、どういうことやったん?」

ぽつぽつと語られた話は、こうだった。

どうも、クラスの○○くんに対して、うちの次男がふざけ半分で「こちょこちょ」していたらしい。

次男にとっては、それが楽しくて、仲良くなれる手段やと思ってたみたい。

実際、家では寝る前によく俺や兄ちゃんと「こちょこちょ」し合って笑ってたし、幼稚園でもそれで笑いが取れていた。

でも○○くんにとっては、それがすごく嫌やったみたいで、こちょこちょされて黙り込んで、やがて怒って…ついには顔を殴ってきた。

次男は驚いたやろうし、何がいけなかったかすぐにはわからんかったと思う。

でも話を聞いていると、「こちょこちょ」が必ずしも“楽しい”ものじゃないって、少しずつわかってきたようやった。

だから俺は言った。

「こちょこちょで笑ってくれる子もおる。でも、嫌がる子もおる。それをちゃんと見極められるのが“やさしさ”やねんで」

次男は、黙って聞いていた。

その数日後、「○○くんには、もうこちょこちょしてへん」と報告してきた。

少しホッとした。

…でも、また数日後。

また殴られたと話し出した。

今度は、特に何もしていないのに、「俺は強いんや」と言いながら○○くんが近づいてきて、突然殴られたという。

そして、涙が出るほど痛かったと。

それを聞いて、俺はこう言った。

「まず、“殴られそう”って思ったときに、先に“今日は殴らんといて”ってちゃんと伝えよう。

それでも殴られたなら、1回でも毎回でも、必ず先生に報告するんや。

それで改善されへんかったら、お父さんが学校行って話してくるからな」

次男は「わかった」と頷いて、その日は布団に入って寝た。

さらに数日後、また報告があった。

殴られそうになったけれど、ちゃんと先に「今日は殴らんといて」って言ったら、○○くんは無言で立ち去ったらしい。

そのあとに「お前のこと、めっちゃ嫌い」と吐き捨てられたと。

それを聞いて俺は思った。

——ちゃんと先手を打てた。

——○○くんにとっても、悔しさが込み上げて、出た言葉やったんやろ。

そして何より、この夜、次男が小さな声で言ったひと言が、俺の心にじんわり残った。

「お父さん、話聞いてくれてありがとう」

子育てって、ほんまに難しい。

子ども自身も人間関係で悩んで、自分の中の“正解”がわからずに困ってる。

その時に大人としてできることって、アドバイスよりも、まず“話をちゃんと聞く”ことなんちゃうかなって思う。

俺にとって、その最適な時間は「寝る前の布団の中」。

真っ暗で、誰にも邪魔されない2人だけの時間。

子どもが心を開きやすい場所やと信じて、これからも大切にしていきたい。

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